Animacyの電子配信が開始された。
この作品は、現代音楽 / 電子音楽のアトリビュートにのっとり、
いくつかの特殊なアプローチを組み合わせて制作し、かつポップミュージックとして機能するものを目指した。
Animacyが、リリースされた当初、メンバーから、
「難解なイメージを抱かれる」のを避けるため、
制作に関する概念的な言及はあまりしない方がいい、と勧められた。
実際、ヒアホン(Vol.2)で記した内容も、体験やエピソード的なものに絞った形になった。
しかし、そのリリースから一年経ち、新たに2つの録音を加味した形で、Animacyがネットの世界で再デビューすることになった。
ネット配信、つまり、レコード屋以外の、様々な広い層のお方のお耳に触れる可能性が高くなったわけで、そろそろ、各曲がどういうメソッドや狙いの元に作られたか、少しは記してもいい頃だと思う。
僕は、ポップな音楽が大好きだし、音楽的なルーツは、やはり、その辺にあると思う。
同時に、僕はアカデミックよりの電子音楽の領域でも、研究や活動をしている。その色や香り、といったものは、消し切れないし、無理に消す必要もないと思う。
むしろ積極的に活かす事で、SJQに興味を持ってくれている人に、何らかの特異な感触を、届けられるのでは、と思いつつ、今もやっている。
Animacyでは、「非ポップ」なアカデミズムよりのアプローチを、「思い切りポップ」なマテリアルを使って、組み上げる事で、よく切れるカッターのような、鋭さを持ったポップミュージックにすることを目指した。
現在のSJQライブのエッセンスの多くも、濃縮された形でここに存在している。
以下では簡単ながら、各曲で用いたアプローチとフォーカスについて、言及してみたい。
短いけれども、iTunes Music Storeで全曲、サンプルがアップされているので、気になった内容があれば、聴きながら読んでもらえれば、と思う。 [ iTunes Music Store ]
01 automata
アルバムの冒頭を飾る曲。「<ループ>を用いない」というAnimacyのルールを使いながら、本作の世界観の導入部となるようにポップな構造を試みた。
メロディ、コードなど、可能な限り楽曲の構成音を、単一のリズムパターンを用いずに、他の前後の音との関係性をとりながら配置していった。
これにより、無数の音で構成しながら、瞬間瞬間で鳴らされる構成音をできるだけ少ない数にするという、ナノフォニックという、Animacyの基本メソッドの一つが実現され、質感を与えている。
曲中で使用されている音声は、”ライフゲーム”の考案者、ジョン・ホートン・コンウェイのコラージュ。<多チャンネル×ループ>という制作ツール依存の形式から逸脱したポップの試行が、本作全般で行われている。
02 pico
一番最初に作った曲。Animacyで目指したいくつかの方法をテストするための習作でもあり、試行錯誤も含めると、この曲だけで2年かかっている。
ループを使わずに、「構成音一つ一つが絡み合う中で、音楽が生まれて来る」ことを目指した。絶妙の間を探して、短い音の断片を、最初から順番に配置していくという、「ちぎり絵」的手法で作られている。
この際の、究極の理想として、<モノフォニックで楽曲が構成される(1音1音の絡み合いの中から音楽が生まれ出る)>というのを掲げた。そのために、構成一つ一つを一度、波形編集を使ってマスタリングするという、無茶苦茶な事をしていて、これが制作長大化の要因にもなってしまった。
こうして作ったベーストラックの上に、もう一度メンバーに演奏をしてもらい、それを上記と同じ方法でもう一度リストラクションした上で完成している。この時も「モノフォニック」に近づけるため、一音足した際には一音以上削って、それも音楽が崩れないギリギリのライン、を目指して編集した。
実作業は、ひたすら部品を磨き粉んでは、一つはめ込む、そしたら最初から聴き直す、という作業を延々と繰り返すもので、一日2〜4拍づつの進行ペース。もう、二度とできないと思う。その介あってか、映像との親和性が非常に高く、ミュージックリップの題材曲にもなっている。「2年」という制作期間は、クレイアニメのようだし、実際似たプロセスだった。しかし、今考えると、<概念>対<実践>間における、一種のスランプだったのかもしれない。
03 nano
「アンチループ」「ナノフォニック」「モノフォニック」といったAnimacyの基本3手法で作った曲。上述の “pico” のペースで制作した場合、アルバム完成までに十年以上かかってしまう事が判明(勿論、作ってる途中で気づいてた)。これではまずいので、リアルタイムの制作環境に切り替えた。具体的には、基本のリズムだけ先に作って、それを基にメンバーのインタラクション(演奏)を収録(SJQは生演奏にもループを使わないためのアルゴリズムがある)。そうやって出来た内容を今度は、コンピュータ上でパッドを使って「ミュート」ボタンを演奏することで、既述のAnimacyの3手法に変換していった。
前出のpicoが、音を精緻に配置していったのに対し、この曲は彫刻刀でガリガリと音を削る手法で、「ナノフォニック(短いソロ演奏による連鎖ドミノ)」を実現し、緊張感が生まれるようにアプローチしている。
トロンボーンは、米子の演奏を適度な粒度で断片化してサンプラーに流し込み、演奏する「サイボーグ米子」的な手法を、従来演奏に組み合わせた。最後にそれをミュート/ソロワークした。結果、トロンボーン演奏による様々な表情とギター及び他の音との絡みが、何度も聞くごとに、把握できて面白くなって来る。音同士の反応が早いので、捕捉するのが難しいけど、3回ぐらい繰り返して聞けば、耳のいい人は3回分の違った聴き方ができるんじゃないかと思う。反芻・スルメ的トラック。
04 nox noctis aer
Animacyの方法で、Cute, Sentimental といった感覚にアプローチした曲。
これが意外と難しく、特にピアノがどうしても定まらずに、何日も弾き続けていた。ある日夕暮れ、打ち合わせ時間の都合上、どうしても出発しなくてはならなくて、遅刻覚悟の「後1回だけ」の録音で、ようやく欲しかった音が採れた(要は集中力が不足しているのだと思う)。それをもとに、メンバーの演奏/インタラクションと共にナノフォニック化していって作った曲。
通奏音として、聴こえるか聴こえない程度の音量でギターの中垣内(a.k.a. omoidemaigo)のドローンを演奏してもらい、入れている。彼がアナログで作るドローンは、とても叙情的で、作品のアトモスフィアとして、他の曲でも微少音として用いられ、とても機能している。ピアノとこのドローンが奥行きを構成した時、この曲は完成したと思った。
05 s.o.m.
これ、書くかどうか迷ったけど、もともとトラックのイントロで鳴っている感じの曲で、アルバムの色に合わず、ボツ寸前の曲だった。ずっとフィックスしていたのだけど、こりゃどうも使えないぞ、と思った。半ばやけくそで、ギズモ(SJQのもう一人のメンバー。生態系を使って音を紡ぐコンピュータープログラム)に、曲を粉々にちぎって受け渡し、反応させてみた。すると、この曲の構造が出て来て、「これだ!」となった。ただ、何年/何ヶ月とかける、これまでの作り方と比べて、あまりにポンと出て来てしまったので、果たして、こんなにサクっとできた曲を収録したものかどうか、不安になってしまった。トロンボーンの米子に何も言わずに聴かせたところ、「聞いた事ない感触」と、思った以上の好評価。採録が決定した。
ナノフォニックっていう手法自体が、もともとギズモを改良する中で、出て来た概念なので、こうやってできた曲でもしっかりナノ/モノでフォニックしてくれている。これもAnimacyなのだ。ギズモの中で、音を与えられた人工生命同士が、食べたり食べられたりっていう鬼ごっこをする中で、このリズムやシーケンスが生まれている。最後の音の引き延ばしは、ギズモをICMCで発表した時に、同じく発表されていた、”spear”というソフトによるもの。パーシャルトラッキングという技術を使ったオーディオソフトで、音に独特の手(耳?)触りがつくため、好きでこの頃は特によく使っていた。
06 mica
<ドローン>と<リズム>の狭間を往来する音をギズモで制作。最初は、ドローンとして現れる音が、段々とスロウになって、レイヤーが切れてリズム的に振る舞うようになる。この構造に反応して、メンバーみんなで演奏/インタラクト。SJQの音楽って、本当に際どい。曲によっては、僕でさえ途中から聴いた時に、構成を見失って音楽に聴こえず、バラバラに空中分解して感じる時がある。大谷君が、センチでキュートなベースを加えてくれて、この曲のキャラクターを作ってくれている。
この曲が作り出すトーンは、僕の心象的なものに適合するのか、すごく自分に近い(身近な感じのする)曲になった。今後、ギズモが作り出すドローンの質感をもう少し探求してみようと思う。
07 a casus at riverside
もともと、あるすごく印象的な映画があって、「そのある1シーンが作り出す情動を音のギミックだけで構成したい」という、第三者にはまったくどうでもよい、ありがちな、すごく私的なところから出発した曲だった(書いてて恥ずかしい)。そこに、メンバーが音を加えてくれて、想定以上の奥行き、色味、世界をつくりだしてくれた。ベースの大谷はモーグのモジュールを多く使っていて、ここでは、彼がそれで奏でる蟲のような音色が極小音で響き、そこに加味される、ギターが右奥で紡ぐ高音の断続的なフレーズが、気分。そして、一番遠くで響く、トロンボーン。これは、前作 “meme?”の時にも使った、関西にある、ものすごく残響のいい、僕らだけが知る、深夜の巨大建造物に、トロンボーンの米子が出向き、収録した演奏。このリヴァーブは、深夜の湿度を含んだ空気と、都市が交通や様々な騒音を含んで深夜に奏でる、あの独特の「ゴー」っていう静かな轟音が相まって生み出すもので、なかなか代替が効かない。僕らにとって宝物のような場所で、前作 “meme?”の時に、”Bird’s eye view”でもここで収音した素材が使われた。
08 qi
最後に、やや力を抜いて、「ループ」的なビートの中、Animacyで試みた手法を展開するという、従来ポップとAnimacy案の折衷的な曲。大谷能生さん(評論家/Sax奏者)は、Animacyの中でこの曲が一番好きだとのこと。嬉しいような悲しいような。かわいいトロンボーンのフレーズの演奏を依頼し、カットアップして多用している。微少音でカットインされる子供の声は、子供好きなトロンボーン米子がどこかしらで録ってきた音と、僕がジブリ美術館の広場で隠し録りした音を組み合わせている。子供の声が本当に活き活きする。おそるべしジブリ。思わぬところで、恩恵を受ける。
“qi” は文字通り、『気』のこと。Wikipediaの英語版で「Qi」って入れると本当に出て来て面白い。曲の最後はグラニュラーでモジュレートして、終わっていく。
<今回のITMS配信用に追加されたボーナストラック>
10 M.O.S.
M05 s.o.m. の生演奏バージョン。コンピュータが奏でるs.o.m.のグルーヴ構造に、演奏者が加わって、どんどん展開していくというもの。ライブ録音。
僕は、目的が例え同じでも、選んだアプローチ方法の特性は、必ず生まれでる音に反映されてくる、と思っている(善し悪しは置いといて)。同じ東京/京都間の旅でも、飛行機/新幹線/バス/船… どの方法で向かうかで、体験としてのテクスチャーが違って来るように。このトラックでは、ギズモや演奏者間の対話ベースのリズム構造/展開など、採用したアプローチの特性が比較的分かりやすい形で出ている。譜面や事前の取り決めでこの分散感を出そうとすると、出来ないとはもちろん言わないけど、結構工夫しないといけなくなるはず。
09 Automaton (Live at Kyoto Metro 2009)
Animacyリリース後に、ツアーとして各地を廻った。その時の内容を、都度録音していて、これは、京都メトロでの1テイク。
ライブでは、演奏者全員がAnimacyのサンプルフレーズを、サンプラーと脳内にもっていて、これらを、短く断片化して演奏、キャッチボールし合う中 で、音楽を構築していく。いわば、ステージ上で、人間の肉体込みでリミックスをやってしまう、という内容が、SJQのライブ。そのため、生音のエフェクト なども、その場で処理している。M01のAotomataが、ステージ上でどのようにカットアップされ、演奏者同士のインタラクションの中で、どう展開し ていくのか、というドキュメンタリー的トラック。
この手法を使うと、通常曲も、分散グルーヴ化できるので、ご自分のプロジェクトをお持ちの方はお試しあれ。












